コラムColumn

最近、消化器外科医の減少についての話題が、時々ネットでも取り上げられるようになりました。私自身消化器外科医として長年勤務してきましたので、それについて私見もまじえてお話したいと思います。
先日、日本消化器外科学会は、厚生労働省の統計を基に、2002年と比べて2022年の消化器外科医師数が2割以上減少していること、しかも医師総数が増える中で、消化器外科が唯一減少している診療科であることを示しました。また、現在の消化器外科医の高齢化もあり、将来推計では、2040年に消化器外科医が5000人規模で不足しうるということです。
では、消化器外科を目指す医師が減っている理由の前に、まず消化器外科医の仕事内容についてお話しします。
消化器外科は、表在の外傷(擦り傷、切り傷、やけど)の治療を行う一般外科も含めて腹部、消化器領域の手術を行う科です。外科には他に心臓血管外科、呼吸器外科、乳腺外科、小児外科などありますが、消化器外科はいわゆるメジャーな外科といわれ、治療に関わる領域が、かなり広範囲となっています。
腹部、消化器領域には、食道や胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門、肝臓や膵臓、胆管など多数の臓器があります。それぞれの臓器に病気が発生しうるのですが、良性疾患なのか悪性疾患なのかで手術方法は異なります。腫瘍部分だけを切除すればいいのか、リンパ節も含めて広く切除すべきなのかなど、手術の難易度も変わってきます。
また、消化器領域の手術は、切除して終わりではなく、腸と腸、胆管と腸、膵臓と腸など、複数の臓器をつないで再建する必要があるため、手術時間がどうしても長くなる傾向があり、縫合不全など術後合併症のリスクも高くなります。
守備範囲が広いため、緊急症例への対応も多くなります。多くの病院では消化器外科医が時間外で対応することになり、虫垂炎や胆嚢炎、消化管出血・穿孔、外傷などによる腹腔内臓器損傷など、命の危険が迫る中で、状況に応じて手術適応、手術方法などを迅速に判断していくことが求められます。
さらに消化器外科医は他科をバックアップする役割もしています。例えば消化器内科で様々な内視鏡的治療を行うと、時には外科的対応が必要となる出血、穿孔といった合併症が発生することがあります。また、腹部も含めた多発外傷の場合は、骨折や他外傷があっても、結局全身管理ができる消化器外科が主科になることが多いのです。
最近は、臓器別に分業が進み、ロボットや鏡視下手術の適応拡大、手縫いから器械での消化管吻合などで、低侵襲化、効率化が進められています。また、働き方改革で、複数主治医制、チーム制、当番制として、各個人の負担を減らす努力はなされているようです。しかしながら、一人前の消化器外科医になっていくには、とにかく多くの症例を経験し、その都度対応を学んでいくしかないようにも思います。
結局、若手医師が消化器外科を敬遠するようになった理由としては、以下のようなことが考えられると思います。
1. 働き方の負荷が高い:前述したような仕事内容であるため。
2. 報酬と責任の不均衡:命に直結するという責任の重さの割には、他科と報酬にあまり差がない。
3. 訴訟リスクの高さやクレームの増加:リスクの高い手術内容に加え、患者側の知識量増加と権利意識の高まりのため。
4. ライフイベントとの両立の難しさ:特に女性医師にとって将来的な出産・育児を考えるとキャリアプランを立てにくい。
このまま消化器外科医の減少が進むと、今後、以下のような深刻な影響が懸念されます。
1. 救急対応の弱体化
・受け入れ先が見つからない
・搬送距離が伸びる
2. 地域格差の拡大
・地方病院での消化器外科手術休止
・紹介・搬送の常態化
3. がん手術の待機延長
・手術枠が減る
・周術期管理ができない
おわりに
消化器外科医が一人前になるには、合併症対応も含めて多くの経験を積む必要があり、長い時間がかかります。
働き方に対する意識が変化している昨今において、そのような仕事でありながらも、若手医師が目指したいと思える環境をどう作っていくかは、喫緊の課題となっています。
将来的な消化器外科医の不足は、がんや救急、地域医療に深刻な影響をもたらす可能性があり、社会全体で捉えていくべき問題であると思います。






