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2025.05.06
帯状疱疹ワクチンは認知症予防になるの?

今年の41日から春日井市では高齢者を対象とする帯状疱疹ワクチンの定期接種が始まったこともあり、ワクチン接種を希望される方が増えています。

ワクチンに対する関心の高まりとともに、マスコミからの情報も増え、患者さんの中にはワクチンの認知症予防効果について興味を持つ方もいらっしゃいます。

確かにワクチン接種で帯状疱疹予防以外に認知症予防にもなるということであれば、関心は高まりますよね。

そこで今回はワクチンと認知症予防の関連についてお話したいと思います。


帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)が起こす感染症であり、子供の頃にみずぼうそう(水痘)として感染したウイルスが、体内に潜伏し、免疫力の低下などをきっかけに再活性化することで発症します。成人の9割以上の方がウイルスを保有しているといわれています。

VZVの再活性化は、神経系に慢性的な炎症をもたらし、帯状疱疹以外にも視神経炎、血管炎、髄膜炎、下半身麻痺などいろいろな合併症を引き起こすことが知られています。さらに脳の神経にも影響を与える可能性があることから、認知症との関係も指摘されるようになったのです。これまでにもワクチンによる認知症予防効果についての報告はありましたが、エビデンス的には弱く、今回はそれを強く支持するするような研究結果が42日に世界的に権威のある論文雑誌「ネイチャー」に掲載されました。

それによると英国のウェールズでは193392日以降に生まれた人を対象に、帯状疱疹生ワクチンを無料で接種できる制度を、201391日から開始し、1日前の199391日までに生まれた人は対象外としたということです。ワクチンの供給量が限られ、接種可能な期間が1年間のみであったことより、背景がほぼ同じで、生まれた日が少し違うだけの集団において接種群と非接種群での発症の違いを比較検討することができたのです。

その後7年間追跡調査をしたところ、ワクチン接種群では認知症の診断を受ける人が非接種群に比べて約20%少なかったことが報告され、男女別でみると女性ではより顕著な差がみられたとのことです。

さらに423日のオーストラリアでも同様の研究結果が報告され、公費ワクチン接種導入の前後で認知症の発症率を比較したところ、やはりワクチン接種群では有意に認知症リスクが低下していたと報告されています。

機序としては、VZVが神経細胞で増殖し、神経周囲に分布している血管を傷つけて血流を低下させたり、慢性炎症を起こして、アルツハイマー病の原因となるアミロイドの沈着やタンパク質の凝集を防ぐからではないかと考えられています。


確かにこれらの研究は信頼性の高いものであり、ワクチンの認知症予防効果を強く疑うものといえます。しかし因果関係を証明するものではなく、あくまでも相関関係がありそうだということを報告しているに過ぎません。ワクチン接種が認知症予防に有効と言えるには、今後無作為比較試験など厳密な研究が必要となります。

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