コラムColumn
前回は肝嚢胞について説明しましたが、膵臓にも嚢胞ができることがあります。ただし、膵嚢胞は肝嚢胞と違って、腫瘍性であることが多く、発見された時点で精密検査の対象となる可能性が高いです。
膵嚢胞についてはいまだに議論が多く、専門的な話となってしまうため、今回は概要をお話し、大まかにご理解していただけたらと思います。
膵嚢胞とは膵臓の中にできる内部に液体を含んだ袋状のもののことで、多くは無症状です。最近は人間ドックや健康診断で、腹部超音波検査やCT検査を受ける機会が多くなったこと、また画像診断が進歩してきたことにより、偶然発見される機会が増えています。
一概に膵嚢胞といっても、実は炎症などによってできた非腫瘍性のものから腫瘍性のものまで様々な種類があります。そしてその中には経過観察してよいものから、手術をすべきものまで含まれており、診断結果によって大きく治療方針が変わることから、各種検査を組み合わせて、できるだけ正確な診断を行う必要があります。
膵嚢胞の種類
膵嚢胞は腫瘍性と非腫瘍性に大別され、それぞれに以下のような疾患があります。
腫瘍性嚢胞(約70%)
・膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
・粘液性嚢胞腫瘍(MCN)
・漿液性嚢胞腫瘍(SCN)
・充実性偽乳頭状腫瘍(SPN)
・膵神経内分泌腫瘍(NET)の嚢胞変性など
非腫瘍性嚢胞(約30%)
・仮性膵嚢胞
・膵類表皮嚢胞
・膵リンパ上皮嚢胞など
難しい名前のものばかりですよね。膵臓はいろいろな機能を持った複数の細胞から構成されており、病気の種類も多くなってしまうのです。
非腫瘍性の場合は、まずは経過観察となります。
腫瘍性疾患は、それぞれ分子生物学的な特徴が異なっています。
SCNは中高年女性に多く、悪性化はほとんどないため、経過観察となります。
MCNは若中年女性に好発し、通常膵臓の左側に発生します。悪性化のリスクがあるため、診断がつき次第手術適応とされています。
IPMNは、腫瘍性嚢胞の中で頻度が最も高く、議論の多い疾患です。
膵臓の中には主膵管と呼ばれる膵臓がつくる消化液や膵液が流れる管があり、その主膵管はさらに木の枝のように細く分かれた分枝膵管とつながっています。
IPMNはこの主膵管内、分枝膵管内に発生し、かなり粘調度の高いドロッとした粘液を作ります。
主膵管に発生するものを「主膵管型IPMN」、分枝膵管に発生したものを「分枝型IPMN」と呼んでいます。主膵管型IPMNでは、粘液が主膵管に充満してくるため、主膵管が拡張してきます。分枝型IPMNでは粘液によって分枝膵管内がだんだん拡張してきて、「ぶどうの房状」と表現される嚢胞所見を呈するようになります。
主膵管が著明に拡張してくる主膵管型IPMNは、癌化のリスクが高いため診断がつき次第手術適応となります。一方、分枝型IPMNは癌になる可能性は2-3%程度とされており、多くの場合は定期的に経過観察していくこととなります。
経過観察中には、主膵管径、嚢胞壁の厚み、嚢胞内結節の有無、嚢胞のサイズなどが変化して手術適応となることがありますので、慎重なフォローが必要となります。
検査
まずは通常の腹部超音波検査で、嚢胞の形状や個数を大まかに把握します。
さらに造影CT検査やMRI検査により嚢胞のサイズ、場所、嚢胞壁の性状、膵管と交通などを評価します。
最終的な治療方針を決めるのに、超音波内視鏡検査(EUS)は極めて有用で、内視鏡の先端についている超音波装置により、胃や十二指腸の壁を通して、至近距離から膵臓の内部を詳細に観察することができます。
まとめ
一概に膵嚢胞といっても、いろいろな種類があることがお分かりいただけたかと思います。
膵嚢胞には腫瘍性のものが多く、癌化のリスクによって治療方針が異なります。よって正確な画像診断が非常に重要となります。
最も頻度が高いIPMNは、タイプによって治療方針が異なり、悪性度の低い分枝型であっても経過観察中に癌化してくるものや、膵癌を合併するものがあるため、注意深い経過観察が必要になります。
膵嚢胞を指摘された場合には、必ず要精密検査となりますが、膵疾患に詳しい医師はそれほど多くありません。適切なフォローのためにも、専門医のいる医療機関を受診するようにしてください。